コンパクトシティとは?

都市のかたちと私たちの暮らしにはどのような関係性があるのでしょうか。
そして、住みやすい都市をつくるにはどのようにすればよいでしょうか。
コンパクトシティについて一緒に学んでみましょう。

1限目
都市づくり
キホンの「キ」

都市づくりの基本的な考え方をご紹介します。

都市づくりは、長期的な視点から都市全体のことを考えながら進めますので、場当たり的な開発は避けなければなりません。皆さんの中には「郊外に大きな商業施設がほしい!」とか、「自分の農地を自由に開発したい!」と思う方もいるかもしれません。その気持ちはとても理解できます。

一方で、世界の住みやすいとされる都市は、いずれも日本よりもはるかに厳格な規制によって計画的に作り上げられているのも事実です。

都市づくりは秩序そのものです。秩序が住みやすい都市を生みます。それは市民や行政、企業の皆さんの理解と実践の積み重ねによって実現します。

「いまがよければ」や、「私がよければ」という思考は都市づくりには馴染みません。

2限目
なぜ、コンパクト
シティなのか?

都市が無秩序に拡大すると将来どうなるでしょうか?

「スプロール」という言葉をご存知ですか。郊外へ無秩序に拡がっていく開発のことです。残念ながら、日本の都市はいたるところでスプロールが進んでいます。(ヨーロッパを鉄道などで旅したことがある方は、都市と農村の境界がとても明瞭であることはご存知でしょう)
※「郊外」とは市街地の縁辺部を指します。市街地から離れたいわゆる「田舎」のことではありません。

一度、拡がった都市は、よほどのことがないかぎり小さくはなりません。事実、人口が減少する地方都市においても、いまも低密度に拡散し続けています。
山林や農地などを開発すると、当然それにあわせて、道路や上下水道、電気などのインフラも必要になってきます。このため、インフラを放棄しない限り、永続的にコストをかけながら維持管理しなければなりません。
だからこそ、しっかり考えながら都市づくりをすることが肝要です。

都市が無秩序に拡大すると、みなさんの暮らしにこのような影響があります。
(この内容の具体的な根拠は、「もっと知りたい!コンパクトシティ」の「研究成果」をご覧ください。)

1人あたりの行政コストが高くなります。(行政サービスの質が落ちます)
身近な場所からスーパーやパン屋、病院、学校などがなくなります。
空き家が増加しやすくなります。(防犯上のリスクや景観の悪化によって、まちの魅力が低下します)
自家用車の移動距離が長くなり、CO2排出量や汚染物質が増え、環境が悪くなります。
公共交通の利便性が低下し、車がないと不便な場所になります。
移動手段が車中心になり、あまり歩かなくなるので、健康に良くありません。
森林や農地などの自然がなくなっていきます。
都市災害のリスクが増えます。

などなど…

結果、とても住みにくい都市になっていきます。

開発を自由にすればするほど、人口が増えたり、まちに賑わいができると思う方もいるかもしれませんが、そうでありません。長期的にみれば、人口減少に拍車をかける大きな要因になります。

MEMO

開発を自由にすると、一般に、郊外の乱開発が増えて、既成市街地は衰退します。これは既成市街地から地価の安い郊外部へ開発の需要が流れるからです。このような事例はたくさんありますが、例えば、高松市や新居浜市などの線引きを廃止(郊外の開発を自由に)した自治体が実際にどうなったかをみてください。

3限目
コンパクトシティと
私たちの暮らし

理想の暮らしには、秩序ある都市づくりが必要です。

「郊外のスプロールを抑制し、中心部や公共交通の主要駅周辺に都市機能を集約させた都市」のことをコンパクトシティといいます。 最も重要なことは、「スプロールを抑制し、低密度化をふせぐ」ことです。そのためには、都市にするところ、しないところを明確にした上での計画的な都市づくりが必要です。また、都市の形にあわせて鉄道やバスの利便性を高めたり、自転車道や歩道を新設したり、渋滞緩和のための環状道路の整備も重要です。当たり前ですが、数年程度でできるものではなく、30年~50年という長いスパンで考えなければなりません。
ある程度の人口密度を保つことで、スーパー、カフェ、パン屋、病院、学校などの施設が身近な場所に存続しやすくなったり、新規出店の可能性も高まります。さらに、沿線人口が確保されることで公共交通機関も維持されやすくなります。
つまり、より幅広い生活サービスと移動手段から、自分の好みにあったライフスタイルを選択しやすくなります。また、子供からご高齢の方、友人や家族など、多様な方々が来訪できる都市づくりは、“おもしろい”まちの条件です。

自動車がないと生活できない都市ではなく、子供から高齢の方までが、いろいろな選択ができる都市を目指しませんか。

MEMO

都市に活力や賑わいを持たせるには、どうすればよいでしょうか。ジェイン・ジェイコブズ(1916年-2006年)は、そのためには多様性が必要であるとし、その条件として、①エリアを多様な用途で構成すること、②街区はできる限り短くすること、③年代や状態の異なる建物が混ざりあっていること、④人々が高密度に集まっていることを挙げています。この考え方はコンパクトシティの考え方にとても似ています。私もさまざまな都市を観察した経験則からも理解できますし、たくさんの都市プランナーに広く支持されていて、都市づくりの基本的な考え方の1つになっています。

4限目
コンパクトシティの
〝うわさ〟を検証

その話はウソ?ホント?真偽について答えます。

強制的に移転させられるの?
そんなことはありません。
当然、今の場所に住み続けることも可能です。みなさんの転居のタイミングにあわせて、既成市街地(市街地化すべき場所)をできるかぎり選んでもらえるような計画的な都市づくりを進めます。これはとても長い時間をかけた、ゆったりとした誘導です。そもそも、都市は、短期間でいっきに変えるより、長期間かけてゆっくり変えていく方が望ましいのです。
田舎の切り捨てになりませんか?
田舎から中心市街地に人を集める政策と思われている方もいますが、そうではありません。コンパクトシティはそもそも田舎(中山間地域)を計画の対象としていません。都市部のみです。田舎の地域づくりには「小さな拠点」という考え方があり、拠点の生活機能と移動手段の確保がポイントです。国土計画を考える上で、コンパクトシティ政策と対をなす重要な考え方です。
郊外は今後開発しないの?
スプロールさせないことが目的なので、開発しないのではなく身の丈にあった計画的な開発をしていくことが必要です。また、本来市街化できない場所(市街化調整区域)であっても、ある一定のルールのもとで住宅や産業団地などを建設することは可能です。
市民の意見は聞いてくれないの?
都市づくりには、市民とともにプランをつくりあげるプロセスが不可欠です。世界的に住みやすいとされる都市はどこも市民参加が活発です。また、そのためには市民の皆さんに適切な知識(情報)を提供することも重要です。このHPはその役割のひとつになることを目指しています。
コンパクトシティ政策は失敗ばかりと聞きましたが?
失敗事例としてよく挙げられる事例をみると、コンパクトシティ政策とは名ばかりで、中心部によくあるハコモノ開発です。行政や開発業者によって、“コンパクトシティ”が都合よく使われるケースは少なくありません。私個人の考えとしては、スプロールさせない対策ほどコンパクトシティ政策だと思っています。
自動運転になってもコンパクトシティは必要ですか?
はい。
自動運転こそ、効率的な道路空間やインフラ、施設配置が重要です。むしろコンパクトシティ政策の効果を発揮できる場面です。
人口が減少している自治体にコンパクトシティは必要ですか?
人口が減少していても都市はいまも拡散していますし、内部は空き家や空き地が増えてスカスカになっています。これを都市スポンジ化といいます。人口減少下のスプロールは都市スポンジ化を助長します。そもそも、人口の増減にかかわらずコンパクトシティは必要です。
コンパクトシティに望ましくない点はありますか?
個人・企業レベルでみると、自由な開発を認めないこと自体を望ましくないと感じる方(例えば、土地所有者や開発業者の方)もいると思います。
そのほか、過密による渋滞問題を望ましくない点に挙げる方もいますが、これは誤りです。自動車に依存した都市の形や、それによるライフスタイルそのものに問題があります。事実、郊外に広がった地方都市においても各所で渋滞しています。その解決には、過度に自家用車に依存した生活そのものを見直す(モビリティ・マネジメント)ことも必要です。
コンパクトシティは本当に実現できるの?

はい、実現可能です。
都市の未来像を描き、計画的な都市づくりによって都市が大きく変わった実例はたくさんあります。例えば、アメリカのポートランド(65万人)やデンマークのコペンハーゲン(60万人)などです。いずれの都市も、いまでは魅力的で住みやすい都市として世界的に有名です。

さまざまな移動手段が選択できる街となったアメリカ・ポートランド
人中心の歩行者空間によって、街の魅力が増したデンマーク・コペンハーゲン